ブラッドベリになりたくて

火星年代記は僕にとっての聖書であり、教科書であり、論語であり、心の友でもある。
僕は英語が出来ないので、小笠原豊樹さんが訳したハヤカワ文庫版を読んだのだが、面白さのあまり読了後は暫くの間茫然としてしまった。
二十六篇のオムニバス形式で綴られた火星年代記は、五十年以上も前に発表された前世紀の代表的SF文学だ。(僕が数年前に古本屋で見つけたのは、昭和五十八年に発行されたものである)

とにかく、火星年代記に完全に感化されてしまった僕は、火星に行って地球人から火星人に戸籍を変えたいとまで考えるようになった。そしてその願望はいつしか、ブラッドベリの様な作家になりたいという夢にシフトしていった。

そして僕は最近、火星年代記の時系列順に並んだ目次にある、美しいタイトル達の内の「沈黙の町」と「長の年月」の間に、


「二〇〇六年三月 ブラッドベリになりたくて」


と勝手に挿入して、無謀とも言える夢を一時ストップさせた……。
火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)