たこやき詐欺

昔、田舎に旅行した際に、道端でたこやきを売っている屋台を発見した。看板には消えかけた赤ペンキで「たこやき」と書いており、屋台の中でラジオを聴きながら眠りこけているお婆さんが、どうやら店の主らしい。
僕はたこやきには目が無い。あれは確か高校生の頃だったが、大阪にたこやきを食べるだけに一泊した事もあった。そんな、たこやきには詳しい僕でも、この店は初めてのタイプと言わざるを得なかった。なんせ、値段が何処にも書いていない。お婆さんに聞いても、「ちょっと待ちなァ」としか答えてくれない。お婆さんは眠い目を擦り、ラジオから流れる演歌のリズムに合わせて、たこやきを軽快に焼いていく。
たこやきの焼き方は一般的な方法だった。だがどういう事だろう。出来上がったそれを見ると、一般的なたこやきとは似ても似つかぬものだった。まず、色が薄い。焼き方が足りないのかと思って触ってみるとパリパリになっているし、それに一部焦げ付いた所もあったので、十分に焼けてはいるはずだ。次に、形が丸くない。丸くないというより、本来削ぎ落とすはずの耳の部分がそのまま残っており、まるでUFOの様になっているのだ。お婆さん曰く、そこが美味いのだそうだ。
透明のパックに十個入ったたこやき。お婆さんに改めて値段を聞いてみる。と、「百円で良いよ」と言うではないか。昨今の都会で売られているたこやきは、安くとも六個入りで四百〜五百円はする。お婆さんのたこやきがいくら形が悪いと言ったって、百円は安すぎる。せめて三百円は払おうと説得したのだが、どうしても受け取ってくれないので、お言葉に甘えて百円玉をお婆さんに手渡した。
屋台の近くに廃校になった小学校があったので、そこのグラウンドにある朝礼台に座って食べる事にした。
薄い色のたこやきにトロリと絡まったソース。青海苔が申し訳程度に塗されており、マヨネーズはかかっていない。二本の爪楊枝をたこやきに刺すと、サクッという軽やかな音と同時に、蛸の柔らかい感触が爪楊枝を通して伝わってくる。不恰好な耳の部分も含めて、一口でそれを頂く。どうやら普通のたこやきよりも油の量が少ないようで、サッパリとした、それでいて歯応えが楽しい不思議な感覚が襲ってくる。次に、中身のパサパサ感が口中から水分を容赦なく奪っていく。やわらかい蛸は、刺身と見紛う程の焼き加減だ。うん、まずい。
百円で良かった。百円で未知の物を食す事が出来るなら、安いもんだ。


池波正太郎先生に影響されてしまったので、これからは食べ物に関する日記も書こうと思う。今回は失敗したけど。